~花の巻~
橙の花
泣いじゃくり
するたびに、
橙の花のにおいがして来ます。
いつからか、
すねてるに、
誰も探しに来てくれず、
壁の穴から
つづいてる、
蟻をみるのも飽きました。
壁のなか、
倉のなか、
誰かの笑う声がして、
思い出しては泣いじゃくる、
そのたびに、
橙の、花のにおいがして来ます。
仲なおり
げんげのあぜみち、春がすみ、
むこうにあの子が立っていた。
あの子はげんげを持っていた、
私も、げんげを摘んでいた。
あの子が笑う、と、気がつけば、
私も知らずに笑ってた。
げんげのあぜみち、春がすみ、
ピイチク雲雀が啼いていた。
あさがお
青いあさがおあっち向いて 咲 いた、
白いあさがおこっち向いて咲いた。
ひとつの蜂が、
ふたつの花に。
ひとつのお日が、
ふたつの花に。
青いあさがおあっち向いてしぼむ、
白いあさがおこっち向いてしぼむ。
それでおしまい、
はい、さようなら。
《もくせい》
もくせいのにおいが
庭いっぱい。
表の風が、
御門のとこで、
はいろか、やめよか、
相談してた。
たもと
袂のゆかたはうれしいな、
よそゆきみたい気がするよ。
ゆうがおの
花のあかるい背戸へ出て
そっと踊りのまねをする。
とんとたたいて、手を入れて
誰かみたか、と、ちょいとみる。
藍のにおいのあたらしい
ゆかたのたもはうれしいな。
露
誰にも言わずに
おきましょう。
朝のお庭の
すみっこで、
花がほろりと
泣いたこと。
もしも噂が
ひろがって
蜂のお耳へ
はいったら、
わるいことでも
したように、
蜜をかえしにゆくでしょう。
夕顔
お空の星が
夕顔に、
さびしかないの、と
ききました。
お乳のいろの
夕顔は、
さびしかないわ、と
いいました。
お空の星は
それっきり、
すましてキラキラ
ひかります。
さびしくなった
夕顔は、
だんだん下を
むきました。
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